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読書記録

読んだ本の感想

歴史・地理

『カストロとゲバラ』

広瀬 隆 (編)  歴史・地理 ★★★★☆

キューバやキューバ革命について、名前はよく聞くのにここまで何も知らなかった自分を思い知らされました。この本でもっとも重要なのは、カストロやゲバラがなぜ命をかけて革命を起こしたのかという理由です。キューバにサトウキビプランテーションを作り利権を独占するアメリカの財閥に属する人々が政界の中にいて、キューバを支配していました。工業の利益はほとんどアメリカ企業が独占し、モノカルチャー化で食料などの大半をアメリカからの輸入に頼る産業構造となります。キューバ人は低賃金で苦しい生活を強いられていました。それを打破するカストロの革命勢力に対し、利権を守るために経済封鎖、軍事行動、暗殺工作などを遠慮なく進めるアメリカと、マイアミの亡命キューバ人たち。その逆境にも負けず粘り強く革命の精神を推し進めたカストロたちキューバ人には感動せざるを得ません。

『詳説世界史研究』

木村靖二、岸本美緒、小松久男 (編)  歴史・地理 ★★★★★

世界史の教科書の決定版だと思います。全てのバランスが絶妙です。なんとか趣味の読書として通読できる1冊の分量に、全時代、全地域の歴史をまんべんなく記載しています。膨大な歴史の出来事などを、簡単ではあるが因果関係も含めて理解できます。世界史として重要なところは文字数を割いてじっくり説明し、地域史とみなしたところは思い切って重要な用語の紹介程度に抑えているバランスも見事で、初心者にもってこいの構成です。図表も多すぎず少なすぎず、十分ビジュアルでも楽しめるようになっています。地図も非常に見やすいです。たまにはさまれるコラムも面白くて飽きさせません。歴史の辞書として、常に手元に置いておきたい本ですね。この本に限らずですが、近代史がほぼ政治の話題のみになってしまうのはなんとかならないものでしょうか。読むのが辛すぎです。

『地図で楽しむすごい神奈川』

都道府県研究会 (著)  歴史・地理 ★★★☆☆

オールカラーで見やすい地図や表が良いです。解説文はあまりドラマチックなものではなくあっさりしていて、よく言えば読みやすいです。見開き1テーマという制約もあり、もっと深くまで知りたいと思う部分が多かったです。短い文の後ですぐに次のテーマにいきますが、テーマごとの関連性も特にないので、ばらばらとまとまりのないトリビアが連続するような印象です。あらゆる分野に話題を広げた割に密度がついていってないですね。神奈川の地形や歴史を楽しく読ませてくれる入門書はなかなかないので貴重なのですが、もう少し練られた本が欲しいところです。

『エリア別だから流れがつながる 世界史』

朝日新聞出版 (編集)  歴史・地理 ★★★☆☆

エリア別なので、イスラム地域やアフリカなど、普段ヨーロッパとの関連で語られがちな部分も通史として読めるところが良いです。画像も豊富で、図や表のデザインもきれいで見やすいです。また本当に最近の出来事まで言及されているので、今のニュースを見る上での知識が得られます。ただその分一つの流れとして世界史を理解するのは難しいです。説明分は大胆すぎるほどに詳細を省いているので、世界史を初めて読むのでなければ少々物足りなく感じるでしょう。本文より図表の方で用語等が詳しく書かれているのですが、それだけだと理解できないのであまり意味がないです。

『世界史は99%、経済でつくられる』

宇山 卓栄(著)  歴史・地理 ★★★☆☆

世界史の出来事の因果関係を経済面からとらえるのが最近の流れのような気がしますが、この本はそれが主眼に書かれています。確かに納得の行く説明が多く、なるほどと思わされます。基本的には全ての国家が繁栄の中で財政難に移行していき、対処療法的に紙幣の増刷や対外戦争に走って衰退していくようで、なんとも無常感がただよいます。本書を読む限り、今まで本当の意味で経済を安定させ続けるシステムを作り上げた国家は存在せず、改めて現在の経済情勢も非常に不安定に見えて恐ろしくなります。自分にとって新しかったのは、貧富の格差や企業の独占がある程度存在する方が、経済成長にはプラスだという視点です。中国の唐がその格差の最適なバランスを超えてから衰退し始めたという話はとても興味深かったです。贅沢を言えば、トピックの寄せ集めを超えて、一つの歴史観を語って欲しかったです。

『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』上下

ユヴァル・ノア・ハラリ(著)  歴史・地理 ★★★★★

人類の歴史についての総まとめ的な大著です。国家、企業、人権などの価値観を全て「虚構」だとし、それによって大規模な協力関係を作ったおかげでホモ・サピエンスが繁栄した、というように全てが相対化されて説明されるので、自分の考え方を変えてくれるまさに目からウロコの連続です。現代の様々な研究や思想を総動員しつつ、それをとことんシンプルに具体的にまとめているので、本当にすごいです。農業革命、科学革命ときて、極め付けは人間の幸福についての章です。幸福とは結局脳内の化学反応であり、現代の便利で安全な暮らしが決してそれを増大させているわけではなく、人類社会が「進歩」しているという概念すら相対化されます。最後はホモ・サピエンスが生物進化の仕組みから抜け出そうとしているという、SF的な、ある種ゾッとする未来の予測で締めくくられます。これを読みながら、自らの種についてここまで説明できるようにまでなった人類の知性と知識の蓄積を、まさに本書が体現していると感じました。

『料理と帝国』

レイチェル・ローダン(著)  歴史・地理 ★★★★☆

紀元前2万年前から現代までの食の歴史を網羅した大著です。あらゆる地域のあらゆる時代の料理について膨大な資料に基づいて語られており、情報量の多さは圧巻です。食文化の変遷が、政治、経済、宗教、技術などにからめて体系的にまとめられていて、その膨大な素材や加工に関する情報が、一つの歴史の変遷として流れるように理解できます。また、加工食品を悪として、なるべく自然のものを地産地消するべきだという昨今の風潮に一石を投じています。輸入され加工された食品を慎重に選ぶ必要はあるが、そこから得られる食の選択肢という大きな「自由」こそ、人類が長い歴史で手に入れつつある成果だということです。素晴らしい本ですが難点があります。私のように膨大な食に関する用語についてある知識がない人にとっては、語られる料理のイメージがつかず非常に読み進めるのが辛いです。

『凹凸を楽しむ 大阪「高低差」地形散歩』

新之介 (著)  歴史・地理 ★★★★☆

大阪に行く機会があったため予習しました。大阪の街にあまり高低差があるイメージがなかったのですが、大阪城のある上町台地を中心に意外にも地形を楽しめる街だということが分かりました。過去には台地をにいくつもの谷があったようですが、東京と違い古代から都市として地形が改造されてきた歴史があるため、ほとんどの谷は整地のために埋められています。さらに、豊臣時代の空堀など、人工的な谷すらもまた埋められたりしているため、大変複雑な人工地形となっています。その消えた谷や掘などがどこにあったのかを想像しながら歩く上町台地はまた格別です。ハイライトは「真田丸」です。史料もあまり残っていない真田丸の本当の姿はいまだ「仮説」しかないようです。自分なりに想像する余地があるのもまた楽しいものです。

『京都の凸凹を歩く -高低差に隠された古都の秘密

梅林 秀行 (著)  歴史・地理 ★★★★★

この手の地形本の中でも出色の出来です。著者は「まいまい京都」というツアーサイトでガイドをされています。そのお陰か解説の流れが綿密に構成されていて、読んでいるとまるで現地で解説を受けながら自分も歩いているような気分にさせてくれます。京都というと平安時代から続く歴史ある街という印象ですが、地形や建物の観点から言うと、そこまで古いものは残っていません。建物は火事で燃えるし、地形は築城したり廃城したりの繰り返しで改変されています。しかし、そんな忘れられた歴史を地形は覚えていて、よく目を凝らして見ると微地形に過去の記憶が残っています。それを少しずつ謎解きしていき、最後には人の営みのストーリーに落とし込んでいく語り口は、見事の一言です。紹介されている地区は有名な観光地ではなく、今は単なる住宅地になっているところも多いです。でもこれを読んだあとは、間違いなく見る目が変わります。

『いっきに学び直す日本史』教養編・実用編

安藤 達朗(著)  歴史・地理 ★★★★☆

いかにも教科書という雰囲気で不安でしたが、意を決して読み始めたところ、思いがけず面白くて一気に読んでしまいました。歴史のドラマを生き生きと、とは真逆の淡々とした記述です。しかし単語の羅列ではなく歴史の因果関係をわかりやすく簡潔に説明してくれます。今まで言葉だけ知っていた人物や事件について、ようやくなんとなくの知識が得られました。良い悪いといった価値判断がなく事実関係がフラットに書かれているため、日本史の学習初期に変な歴史観を植えつけられないのが良いです。個人的には明治大正の政治関連の流れがつかみにくく、若干読むのが苦痛でした。受験生はこんなに政党名を覚えなくてはならないのは大変ですね。

『増補新装版 図説 フランスの歴史 (ふくろうの本)』

佐々木 真(著)  歴史・地理 ★★★☆☆

フランスを訪れる機会があったので、勉強のために読みました。図が豊富で、なんとなくフランスの歴史をつかむのには良い本です。ただ決して入門書に向いている文章ではなく、政治経済を骨太に説明していて、初心者には少々難しいと思いました。読後はフランスのイメージが変わりました。11世紀の農業革命まではフランスは森が深い辺境地域。また中世は王といってもあくまで封建領主で、あまり強い権力はない。フランスの華やかな歴史はルイ13世以降の絶対王政からようやく始まる印象で、それもフランス革命以降は血みどろの階級闘争の歴史になっていきます。意外と安定感のない国なんだなという印象でした。

『日本の食文化史 旧石器時代から現代まで

石毛 直道 (著)  歴史・地理 ★★★★★

日本の地理と歴史の背景からどのように食文化が生まれ変化していったかを、非常にわかりやすく面白く読めます。なぜ米飯と食べ物の一般名詞が同じ「ご飯」なのか。なぜ肉ではなく魚類で「出汁」をとるようになったのか。江戸時代に確立した寿司や天ぷらなどの伝統的日本食は、どのていど「古い」食べ物なのか。戦後どのように日本食と外国の食が混ざり合ったのか。今私たちが食べているものと、過去の歴史が繋がっていく感動を味わうことができます。そして後半の日本の食文化の解説を読むと、洋食が定着して伝統が失われているように見える現代の日本の食が、実は思ったほど伝統から抜け出していないのかも、と思わされます。

『歴史の見方がわかる世界史入門 エピソードゼロ』

福村 国春 (著)  歴史・地理 ★★★★☆

全ての説明が事実の羅列ではなく解釈を伴っています。それに加えて文章が非常に平易ですので、歴史の流れの分かりやすさはすごいです。「歴史の見方」という注釈に物事を対比して政治や宗教の構造を簡潔に書いており、それが色々な場面で繰り返し引用されるのが良いです。時間や空間を超えて繰り返されるものごとを抽出することで、歴史を見る視点を与えてくれます。どちらかと言うと主眼は宗教に置かれています。そのため中世ヨーロッパなど、宗教定期に難しい時代を理解する助けになります。読みやすい分網羅性はないので、地図などが豊富な別の通史と併読するとよいでしょう。

『道路の日本史ー古代駅路から高速道路へ

武部健一(著)  歴史・地理 ★★★☆☆

日本の律令国家の時代に、すでに全国に渡る計画的な道路が敷かれていたことに驚きです。朝廷のみが使える道で迅速な情報の伝達などを目的としていたため、主な街を通るのではなく、あくまで直線的なルートで敷かれたようです。そのため現代になって高速道路を直線性を重視して計画した際に、多くの道路遺跡とルートが重なってしまったという話はとても面白いです。その古代七道駅路が衰退してからは、暗黒時代に入ります。その後、江戸時代の五街道で国家規模の道路が復活しますが、こちらは庶民の便も考慮されていたため、直線性よりも街の通過が重視されたようです。

『世界全史「35の鍵」で身につく一生モノの歴史力

宮崎 正勝(著)  歴史・地理 ★★★★★

とにかく世界史の大きな流れをつかむことに主眼が置かれており、メインストリームから外れた国や出来事や人物に関する記述は気持ちよく省かれています。その上でその大きな流れが起きる因果関係が明確に、シンプルに説明されています。人類誕生から現在までの世界史のストーリーが流れるように読めます。本書を読んでから、より詳細な歴史の知識を得れば、吸収力が倍増すること間違いなしです。世界史というと西ヨーロッパが中心というイメージがありましたが、それはあくまで大航海時代以降の話だという認識に変わりました。ローマ、イスラム、インド、中国といった帝国の辺境だった西ヨーロッパが覇権をつかみ、それが没落したのが今の時代。世界なんてこれからどうなってもおかしくないな、と思わされました。

『新装版 京都千二百年』上下

西川 幸治,‎ 高橋 徹 (著)  歴史・地理 ★★★★☆

千年以上の歴史を持つ都市である京都がイラストを交えて解説されています。街の中心が西から東へ移り変わっていったこと。街の担い手が貴族から武士、そして庶民へと移り変わったことなど、今まで知らなかった京都のストーリーを知ることができました。イラストがとにかく素敵で、街にクラス一人一人の生活の様子まで細かく描かれています。平安時代まで遡ると、残念ながら当時を忍ばせるような場所はほぼ残っていません。しかし地名や通りの名前などそこかしこに、連綿と続く歴史を感じることは出来ます。この本を読んだ上で、当時から変わらず流れ続けている鴨川を眺めれば、大昔の人々の暮らしに思いを馳せて想像を膨らませる楽しさを味わえるでしょう。しかし、日本の木造建築の文化は素晴らしい反面、度重なる家事などで一瞬にして歴史的な建築物が焼け落ちてしまうのがつらいところです。

『世界史劇場 第一次世界大戦の衝撃』

神野 正史(著)  歴史・地理 ★★★☆☆

シンプルなイラストを使ったパネルによる解説は相変わらず分かりやすいです。しかし今回は不満がいくつかありました。まず戦争に至る各国の情勢にあまり触れられず、直接の原因であるオーストリア継承問題からスタートしている点です。そして何よりこの大戦があまりに多くの死傷者を出した凄惨な出来事というイメージがあるにも関わらず、ポップで可愛いイラストと軽めの解説で語られることに違和感を感じました。流れをさらっと理解するのが本書の目的なのでそれで良いのかもしれませんが、個人的にその重さのギャップを感じたまま読み進める形になってしまいました。でも戦争の流れは非常に理解しやすいので、良書ではあります。

『歴史の見方がわかる世界史入門』

福村 国春 (著)  歴史・地理 ★★★★★

世界史の入門書のカテゴリーは個人的に3つあります。大まかな流れが掴めるもの、出来事の詳細まで分かるもの、物語を楽しめるもの、の3つです。これらを両立した1冊ってなかなかないと思いますが、本書はそこのバランスが素晴らしいです。脇道のトピックスに逸れることなく因果関係を1本の線で説明しながらも、重要なところは細かく語られます。そして何より、歴史を一つの物語として楽しめるような情緒のある語り口です。世界史という1本の映画を観ているような感覚でした。ただし地理的な説明だけはかなり弱いので、別に地図が豊富な入門書を事前に軽く読んでおくことをお勧めします。

地形のヒミツが見えてくる 体感! 東京凸凹地図』

東京地図研究社(著)  歴史・地理 ★★★★☆

高低差が分かる地図を使った東京のガイドです。同様な本はいつくもありますが、この本は書かれる内容の範囲の広さが特徴です。都心の台地だけではなく、丘陵や、人工的な新興住宅地にいたるまで、あらゆる種類の地形が紹介されています。範囲が広い分それぞれの記述はさらっとしていますが、地形の入門としてはちょうど良いバランスかもしれません。特徴的な地域を紹介し、それにちなんだ地理のトピックを図で説明するスタイルで、読み進むうちに自然と知識がついて行きます。凹凸地図のクオリティも非常に高く、教科書として最適です。

『詳説世界史図録』

詳説世界史図録編集委員会 (著)  歴史・地理 ★★★★☆

山川詳説世界史を読む上での必需品です。教科書に出てくる内容に関連した膨大な絵や写真が載っていて、重要な用語に関するものがほぼ網羅されています。勉強として、ビジュアルで覚えやすくするためのみならず、単なる読み物として眺めていても非常に楽しいです。肩肘張らずに雑誌的な読み方をしていると、いつの間にか時間が立ってしまいます。海外旅行に行った時なんかも、この図録に載っていたものを見つけた時はテンションが上がること必至です。一方で詰め込みすぎたせいか少々写真が小さいのが難点です。それが勉強という面でも印象を弱くしていて良くない気がします。思い切って年表や文章を削り、でかでかとビジュアルだけを強調したものが欲しいというのが正直なところです。

『世界史劇場 イスラーム三國志』

神野 正史(著)  歴史・地理 ★★★☆☆

情勢が一目で分かる「パネル」が豊富で非常にわかりやすいのは相変わらずです。大航海時代以降の世界史はヨーロッパ中心になりがちですが、イスラームの「陸の帝国」が引き続き隆盛であることが良く分かりました。東ヨーロッパを征服したオスマン帝国を含む三國時代はとても魅力的です。ただ今回は地図の範囲や縮尺が毎節ごとに大きく変化したので見難かったです。各国の勢力範囲もラインで示されていますが一目では理解しにくい。少々パネルの効果がうすれてしまったという印象で残念です。

『世界史劇場 アメリカ合衆国の誕生』

神野 正史(著)  歴史・地理 ★★★☆☆

アメリカ独立の美辞麗句の裏に隠された本当の歴史を教えてくれます。まずは植民地形成におけるインディアンの虐殺について、その後の独立宣言や憲法の文句との矛盾をつきます。また独立の理由が、正義のためなんかではなく、あくまで植民地の有力者がイギリスからの徴税から逃れるために起こした私利私欲のための戦争だといいます。主張したいことは良くわかるし納得できるのですが、若干アメリカの歴史批判が繰り返されすぎてうんざりしました。もう少しフラットな記述の中に、少しだけ筆者の視点を入れるくらいでちょうど良いと思うのですが。

『凹凸を楽しむ 東京「スリバチ」地形散歩2』

皆川 典久(著) 他  歴史・地理 ★★★☆☆

前作で取り上げられなかったエリアを補完する第二弾です。これでおよそ東京の主要な地形スポットが紹介され、散歩に行く前に読む東京の地形図鑑として最適な二冊になっています。今回は横浜も紹介されていますが興味深い内容で、当たり前ですが東京以外の地域にもまだまだ面白いところがたくさんあるということを再認識。新潟と仙台も簡単に触れられていますが、このような地方都市のバージョンも今後増やしていって欲しいと思います。本書の内容は東京がメインですが、東京以外の自分の街や故郷を歩いて、その特徴を自ら見つけて楽しんでいくきっかけにもなると思います。

『地図と愉しむ東京歴史散歩 地形篇』

竹内正治(著)  歴史・地理 ★★★☆☆

この本を読めば、東京の見え方が少し変わります。東京の街並みは日々めまぐるしく変化していますが、一方で江戸時代からほとんど変化していないものが「地形」です。例えば、鉄道の経路は地形の制約を強く受けています。また、高台の一等地には明治のお屋敷の形跡がわずかに残っています。これからは散歩が楽しくなりそうです。

『世界史劇場 日清・日露戦争はこうして起こった』

神野 正史(著)  歴史・地理 ★★★★★

歴史の因果関係をこうもわかりやすく解説した本は見たことがありませんでした。なぜ日本が戦争をすることになったのか、なぜ大国に勝つことができたのか。それが現代の視点からの善悪の判断を一切はさまず、事実ベースで整然と説明されます。日本が西洋諸国に支配されずにすんだのは、薄氷を踏むような場面での幸運の連続があったため。でもそれを呼び込んだのは血の滲むような近代化の努力を続けた日本人が呼び込んだ運であるという本書のコラムを読んで、感動せずにはいられません。

『世界史劇場 イスラーム世界の起源』

神野 正史(著)  歴史・地理 ★★★★☆

まず見開きの図で大まかな流れを説明し、それからその図の一部を使って詳しく説明していく手法が絶妙です。絵も文章も良い意味で軽く、難しい表現がいっさいないのでサクサク読めます。ページの下には筆者の独断と偏見も多少入った解説が満載で、それも非常に楽しいです。昨今イスラム教に対して偏見を持ちがちですが、この本を読んで多少は理解ができたような気がします。イスラムとは単なる宗教ではなく、自分たちとなんら変わらないとても人間臭い人たちが作り上げてきた、宗教をベースとした国家と文化のことなんだ、と個人的には理解しました。現代日本に対する教訓を示そうとする記述もあり、勉強になります。

『古代地中海世界の歴史』

本村凌二(著)  歴史・地理 ★★★☆☆

古代地中海周辺の概要を非常に読みやすくまとめてあり、メソポタミア、エジプト、ギリシャ、ローマなどの歴史を勉強する前の予習として最適なのでは。地図や美術品の写真も多く、イメージも湧きやすいです。空間的には地中海世界、時間的には古代という範囲は、1冊で概要をさらうのにちょうど良く、飽きることなく読み進むことができました。できれば高校時代に出会いたかった本です。

『幕末史』

本村凌二(著)  歴史・地理 ★★★★☆

明治維新の歴史を、勝者である薩長の視点からではなく、冷静に客観的に描いた本です。倒幕側には何かの理想があった訳ではなく、また新政府成立後のビジョンもなかった。単に権力闘争が暴力によって行われただけだというのが概要です。開国して海軍力を高めるという方向で一旦は一致した国の流れが、権力欲しさのクーデーターによって内戦が始まってしまいます。結局は関ヶ原の西軍であった薩摩と長州が幕府に復讐し、逆に新政府で権力を独占するという皮肉な話になります。そして幕末の志士たちが病気や暗殺でどんどん死んでいき、最後には「そして誰もいなくなった」となります。最後は軍の統帥権が確立して太平洋戦争まで続く布石が打たれるところで終わります。なんだか切ない話ですね。

『若い読者のための世界史』上下

エルンスト・H・ゴンブリッチ (著)  歴史・地理 ★★★☆☆

ヨーロッパから見た世界史です。タイトルの通り若い人を対象としているので、割り切って詳細な記述をせず、大きな歴史の流れに特化しています。歴史が一つの物語として書かれていて、まるで小説のような感覚でいっきに読めます。入門書としてはすごく良いです。そして注目すべきは下巻のあとがきです。この本は著者が25歳の時、第一次世界大戦が終わった時代に書かれています。そしてあとがきはその50年後、まさかの二度目の世界大戦を経験し、核戦争の危機も味わった後の時代です。さらに筆者はオーストリアでユダヤ人として生まれ、運良くイギリスに渡っていた頃にナチスの時代を生きています。当時の考えを自ら否定し、悲観と希望の間にある筆者の心境がとても興味深いです。

『凹凸を楽しむ 東京「スリバチ」地形散歩』

皆川典久(著)  歴史・地理 ★★★★☆

スリバチ学会独自の「スリバチ」の定義に基づいて、一級〜三級のスリバチ地形を紹介しています。東京の地形の面白さを紹介しつつ、江戸からの歴史や地理学が分かりやすくまとめられており、非常にバランスの良い地形本だと思います。3D地形図も秀逸で、地形が一目でわかる上に川跡や暗渠の線も書かれており見てるだで楽しいです。読んでいると都内の谷戸に出かけたくてたまらなくなります。何かの用事で都内のあそこに行ったら、あの地形が見たいな・・とわくわくしています。

『図説 メソポタミア文明』

前川和也(著)  歴史・地理 ★★★☆☆

とにかく美しいビジュアルが豊富です。出土品を見て、5000年前の人類がこれを作ったのかと、驚きの連続です。ただ歴史を時系列に解説していくというよりは、トピックを断片的に集めたという印象で残念だったです。しかしそれはメソポタミア研究の現状が原因で、政情から遺跡発掘が思うように進んでおらず、判明している事実が断片的になってしまっているようです。過去の世界の中心と言って良い場所。そこがまた再びその繁栄を取り戻す日はくるんでしょうか。

『世界史との対話』上中下

小川 幸司 (著)  歴史・地理 ★★★★★

長野の高校の先生が書かれた、知識詰め込み型ではない、世界史との「対話」を楽しませてくれる講義形式の本です。戦争や改革などの出来事をトピックにしながらも、思想家や芸術家など、その時代を生きた人間個人の視点を通してそれぞれの時代が語られます。また歴史を「分かりやすく」単純化して説明するような読み物ではなく、より多面的な見方で初学者の常識を覆してくれます。その分読み応えがすごいです。基本的に人類の歴史は悲劇の連続で、それは現代の福島などを見る限り進歩してない、むしろ悪くなっているという悲観的な視点で描かれます。しかし、そんな中で人の「いのち」に目を向け、自己犠牲を顧みずに他者を助けようとしたり、正義を訴えたりした個人のストーリーが対比されます。世界史との対話とは、人間一人一人のいのちとの対話であったのです。まさか世界史の通史を読んで、感動して涙するとは思ってもみませんでした。こんな先生に出会えた学生達は本当に幸運だろうと思います。

『東京の自然史』

貝塚爽平(著)  歴史・地理 ★★★★☆

東京の地形や地質の成り立ちが解説されています。丘陵、台地、低地などの地形が過去の海水面の変動や火山灰の堆積などの歴史からどのように形成されたかが分かります。また特に防災の観点からの記述が多いです。地盤沈下によって下町に広範囲の海抜0メートル地帯が広がっていることを知って驚きました。荒川の水面よりも低い土地を想像すると恐しいです。今まで一括りに東京の土地を眺めていましたが、これからは違った見方ができそうです。基本的に素人にも分かりやすい内容ですが、地層などで少々難解な部分もあります。

『新装版 江戸の町』上下

内藤昌(著),穂積和夫(イラスト)  歴史・地理 ★★★★★

何もない原野だった武蔵野が、江戸時代に世界一の超過密都市に成長する過程が描かれています。徐々に城下町が広がっていき、明暦の大火などの災厄を乗り越えて発展していく様が、一つのストーリーとして楽しめます。下巻は特に歌舞伎や浮世絵など、江戸時代の文化の解説が多いです。都市建設の歴史に加えてこの文化面の解説もあいまって、「江戸時代」の入門書として最適な内容になっています。イラストがとにかく素晴らしいです。人間一人一人まで緻密に書き込まれているにも関わらず、適度なデフォルメで文章を分かりやすくさせています。鳥瞰図のイラストは今の東京と重ねて眺めると本当に楽しくて、いつまでも見ていられる程です。

『一冊でわかる イラストでわかる 図解戦国史』

成美堂出版編集部 (編集)  歴史・地理 ★★★★☆

戦国時代の入門書として、最強に分かりやすい本です。文章、地図、図、イラストのバランスが素晴らしく、またトピックのチョイスも詳細すぎず大まかすぎず絶妙です。時代の主役となったメインストリームの武将達と、それを取り巻く魅力的な脇役達 、それぞれの関係性と構図がすっと頭に入ってきます。解説文は淡々としていますが、諸説あるところは断定せずに事実だけを並べているのが良心的です。しかしこの時代は本当に面白いです。解説に余計な演出は不要ですね。桶狭間の戦い、信玄の死、関ヶ原などなど、いくつもの分岐点をへた結果として江戸時代の平和があったのだと思うと不思議な感覚になります。

『図説 ギリシア―エーゲ海文明の歴史を訪ねて

周藤 芳幸(著)  歴史・地理 ★★★☆☆

ギリシアの歴史の入門にはとても良さそうです。数々のギリシアの遺跡などの写真に多くの紙面を割いており、その分解説は詳細過ぎず大雑把過ぎずの良いバランスです。歴史の出来事の舞台となった先史時代の遺跡やポリスの歴史の写真がその都度載っていいるので、もしギリシアに旅行する機会があればこれを持って行きたいですね。同じシリーズにギリシア神話の感があるためか、美術品の写真が極端に少ないのが不満な点です。

『一冊でわかる イラストでわかる 図解世界史』

成美堂出版編集部 (編集)  歴史・地理 ★★★☆☆

トピックスごとの地図がビジュアル面ですごく分かりやすく、各勢力の版図の変遷を眺めているだけで楽しいです。本文ではしっかりと出来事の因果関係を説明しており、用語の羅列になっていないのが素晴らしいです。高校の世界史の教科書と合わせて本書を使ってみても良いのではないかと思いました。大胆に省かれているところもあるので辞書的な使い方はできませんが、各時代の勢力図に特化して見れば、最高のテキストになると思います。あえて注文をつけるなら、年号が地図の中に順不同で埋もれているので、非常に探しにくいところでしょうか。

『図説 海賊大全』

デイヴィッド コーディングリ(編集)  歴史・地理 ★★★★☆

自由で残酷でロマン溢れる海賊の物語をかなりの情報量で楽しむことができます。情緒的な内容よりも、世界史との関連を交えながらの冷静な解説が多く、今まで海賊に対して抱いていたなんとなくのイメージを覆されました。海賊は単なる強盗だと思っていましたが大間違いでした。海軍力が弱い国家が、敵対する勢力から利益を収奪するために許可を与えた私掠船と、そこからはみ出して無差別に船を襲撃しだす海賊たちと国家との関係が面白いです。そして、海賊に拿捕された際に、あまりに過酷な環境で労働していた船乗り達が、より自由で平等な世界を求めて進んで海賊の仲間入りをしていたこともまた興味深いです。

『ローマの歴史』

I.モンタネッリ(著)  歴史・地理 ★★★☆☆

ローマの歴史が分かりやすく1冊にまとまっています。歴史の流れだけではなく、人物の人となりや庶民の文化などにも触れられています。ローマについてもっと知りたい、と思わせてくれる本です。

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