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読書記録

読んだ本の感想

人文・思想

『史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち』

飲茶 (著)  人文・思想 ★★★★★

仏教を神秘的な何かを信じるような宗教の一種だと思っていましたが、本当に無知も良いとこでした。理路整然としたインド哲学を釈迦が発展させ、悟りを開くための方法論として仏教が出来上がっていく。それが日本に伝わって禅へと繋がっていく流れはなんというか、カッコいいです。悟りは言葉と論理では説明不可能で、個人個人が「体験」することでしか得られない。そのために方便として数々の教えがあるといいます。こんなことも理解せず今まで仏教と接して来たかと思うと恥ずかしい限りです。こんな平易な文章で、こんなに大事なことを理解させてくれる本書に感謝せずにいられません。

『マインド・コントロール 増補改訂版』

岡田 尊司(著) 他  人文・思想 ★★★☆☆

人を新興宗教やテロ行為に走らせるマインドコントロールの歴史と原理についての解説書です。人間の弱い部分をとことん利用して無意識を支配する手法の数々に寒気がします。カルト教団や戦争での極端な例が主に書かれていますが、その少なくない部分が企業などの日常的な組織の状況にも当てはまるような気がして、それがまた怖い。本書に示される基本原理を逆に捉え、自分がマインドコントロールを受けないためには、と考えて心に留めておくことは、人間社会で生きるために間違いなk役立ちます。

『英語学習のメカニズムー第二言語習得研究にもとづく効果的な勉強法

廣森友人(著)  人文・思想 ★★☆☆☆

英語学習の基礎が学べます。ただ内容が一般的すぎて、これを読んですぐ自分の学習に応用できるようなものではありませんでした。一般向けというよりも、英語を教える側の人向けに書かれた内容が多いように感じました。学習者の個性に応じた学習法についても書かれていますが、記述はあっさりしています。

『千の顔をもつ英雄〔新訳版〕』上下

ジョーゼフ・キャンベル (著)  ★★★☆☆

世界の神話や民話に共通する構造を解き明かした本で、ジョージ・ルーカスがスターウォーズの脚本執筆の土台としたことで有名です。スターウォーズの物語を思い浮かべると、確かに神話と同じ構造をとっていることが分かります。でも、とにかく文章が難しすぎて読むのが辛すぎです。自分のように無教養だと初めて触れるような神話が、断片的に次々と紹介され、それに学術的で理解するのも難しい解説が織り交ぜられます。確かになんとなく全ての神話に共通する構造みたいなものがあるのかなと思う程度が、頑張って読み終わった後の感想です。

『史上最強の哲学入門』

飲茶 (著)  ★★★★★

バキ風の解説になるのかと思いきや、意外と中身には一切関係ありませんでした。しかし、この本の分かりやすさは驚異的です。かなり少ない文字数であっさりと軽い文章ですが、「真理」や「存在」などについての大哲学者達の議論が面白いほど頭に入ってきます。人類の思考の歴史的な変遷を旅しているような感覚で、あっという間に読めてしまいます。古代ギリシアのプロタゴラスが説いた相対主義をスタート地点に、真理の追求が始まる流れになっていますが、結局は現代哲学や科学の行き着く先が他者論や不確定性原理という相対的なものなのが皮肉で面白いです。哲学者の論争は量子力学の解釈問題なんかと重なっていて、むしろ理系の人こそ楽しめるのではないかと思います。

『暴力の人類史』上下

スティーブン・ピンカー (著)  ★★★★★

読み終わって世界の見方が変わりました。戦争、殺人、虐待などの暴力が人類の歴史の中で一貫して減少していることが、数多くの統計データに基づいて定量的に主張されています。前半では暴力がどのようにして減少してきたかの歴史が語られており、中世以前の戦争や拷問の描写はかなり衝撃的です。後半は人間の心の中にある暴力を働かせる「内なる悪魔」と、同時にそれを抑制する「善なる天使」について述べられています。道徳や哲学ではなく、進化論、ゲーム理論、心理学などの観点から科学的な解説がなされ、人間の「理性」を高めることの重要性が説かれます。歴史上で悲惨な死を遂げた何億もの人々と、人道主義への道を開いた偉人達に思いを馳せながら、私たちが現在こんなに平和で幸福な時代に生きているという奇跡になんとも言えない気持ちになりました。世界や自分の人生に、少なからず希望を抱かせてくれる本だと思います。

『影響力の武器[第三版] なぜ、人は動かされるのか

ロバート・B・チャルディーニ (著)  ★★★★★

企業が客に商品を買わせるための方法など、大小様々な誘導のテクニックが紹介されます。それが自分の過去の判断に当てはまりすぎてドキッとします。そういう面白さから分厚い本にも関わらずあっという間に読めてしまいます。その上で内容は最新の研究結果を踏まえた骨太なもので、信頼性も高いです。重要で普遍的な6つの原理に絞ってそれぞれを徹底的に詳しく解説しているため、トピックが発散しないのが良いです。普段の生活や仕事で人に頼みごとをする時、もしくは自分がされた時に、6つの原理であればスッと頭に思い浮かべ、応用するのにちょうど良い数でしょう。読後はこれを読まずして人生の海を渡るのは危険だなと思えてきます。そしてこの本が素晴らしいのは、そういったテクニックに騙される人間の特性を単純に否定せず、なぜ進化の過程でその特性が有利だったのか、という多面的な視点もしっかりと提供してくれるところです。

『心理学・入門ー心理学はこんなに面白い

サトウタツヤ/渡邊芳之(著)  ★★★☆☆

心理学とはどういう学問なのかを広く知ることができます。あまり突っ込んだ内容ではないので、これをガイドブックとして、興味の湧いた心理学の分野について詳しく書かれた本を探してみると良いでしょう。

『社会主義の誤解を解く』

薬師院 仁志(著)  ★★★☆☆

社会主義というと、なんとなくソビエトや中国の共産主義と東西冷戦といったイメージを抱いてしまっていました。本書はそういった誤解を解くために、政治的な経緯と思想とをしっかり切り分けて説明してくれます。共産主義という用語は過去に様々な立場の人間が政治的な意図を持って掲げた看板であるに過ぎず、根本的にはあまりその言葉自体に意味はないというのが目から鱗でした。自由主義による格差拡大が問題視されている現代において、社会主義の「思想」そのものを考えることには価値がある。そのために余計なレッテル付けを無くすことから始めないといけません。

『パーソナリティを科学する―特性5因子であなたがわかる

ダニエル ネトル(著)  人文・思想 ★★★★★

これを読めば人生の悩みが少しは減ると思います。素晴らしい本です。性格は「分類」されるのではなく、5つの特性が連続的に測定されます。特性の項目は、統計上有意に相関のある項目をまとめていき、最終的に現れる特立した5つの特性を抽出しており、非常に理論的で説得力があります。そしてそれぞれの特性は自然淘汰の中で生き残ってきたものであり、必ずメリットとデメリットを持っている。それが状況によって有利に働いたり不利に働いたりするのであり、決して優劣をつけられるものではないという記述には勇気付けられます。自分の嫌いな性格を否定して変えようとするのではなく、それを認めて上手くコントロールしていこうという前向きな気持ちになれました。

『右翼と左翼』

浅羽通明(著)  人文・思想 ★★★★☆

右翼が保守派で左翼が急進派、というイメージを持っていましたが、それだけだとイマイチ歴史やニュースで言っていることが理解できませんでした。でも本書を読んで長年の疑問に答えが出ました。①左翼の「自由」「平等」「人権」という理性に対して、右翼は知性を否定して「伝統」「感情」を重視していること。②右か左かはあくまで2つの立場の相対的な分類であって、例え同じ立場でも社会情勢の違いによって右と呼ばれたり左と呼ばれたりすること。この2点を頭に置くと、ある主張が右翼や左翼と呼ばれる理由が腑に落ちます。作者がこうして左右を俯瞰して説明する行為自体かなり左翼的な立場だと思うのですが、最後に宗教を肯定的に書いていることが唐突で意外でした。

『行動分析学入門ーヒトの行動の思いがけない理由

杉山尚子(著)  ★★★★☆

他人の行動を見て「やる気がない」「だらしがない」と感じてイライラし、精神論でお説教を繰り返してしまうことがいかに不毛かを気付かせてくれました。行動分析学では行動の原因を「心」ではなく、報酬や罰などのその行動を強化・弱化する「外的要因」と考えます。相手の心を変えるのではなく、行動に対する環境の変化を変えることが重要なのです。

『9つの性格ーエニアグラムで見つかる「本当の自分」と最良の人間関係

鈴木秀子(著)  人文・思想 ★★★★☆

冒頭で、人間はかならず9つの性格のうちどれか1つを持って生まれてくる、そして人数比はきれいに9等分になると書かれています。理由もなくそう断言されて少し不安な気持ちになりました。でも自分がどのタイプかを特定し、その説明を読んでびっくりです。完全に自分の性格に一致していました。その他のタイプについても、知り合いはどれかな、と考えながら読むと面白いです。人間の多様性を受け入れる心を養うのに最適な本です。これに理論的な裏付けがあればさらに説得力があるのにもったいないですね。そして9個もあるのが個人的には多すぎだと感じて違和感を持ってしまいました。

『性格心理学への招待[改訂版]ー自分を知り他者を理解するために

詫摩武俊(著)  人文・思想 ★★☆☆☆

教科書然としていてあまり面白みはありませんでした。性格の分類に興味があって読みましたが、類型論と特性論についての概論がわずかにあるのみでした。教科書としては読みやすくて良いと思います。

『日本語のレトリック―文章表現の技法

瀬戸 賢一 (著)  人文・思想 ★★★★☆

普段意識していない日本語の表現方法について気づかせてくれる本です。特に印象的だったのは、ある隠喩を使った例文をどんどん直接的な表現に直していく下りで、結局最後まで本質的には隠喩からは抜け出せません。人間が抽象的な概念を説明する言葉は、いきつくところは「例え」であるという認識は、人間に対する新しい見方を示されたような気がします。引用されている文章が素晴らしいのですが、それがなぜ素晴らしいのかを解説されてなるほどの連続です。

『ココロを動かす技術、ココロを読み解く科学』

ひろた かなん(著)  人文・思想 ★★★★☆

人間の様々な感情を進化の樹形図に表しているところがすごいです。愛(母性本能)・興味(生存本能)・希望(知性)という根源的な感情から、恋や恐怖や怒りなどの感情が、主に人間関係をベースとして枝別れてしていくという説明はとても明確で、無理なく納得できる内容になっています。それ以外にもい心理学のトピックがいくつか論じられていますが、すごい説得力です。しかしこの著者が何者で、どういうバックグラウンドがあるのかが謎なので、どこまで信用して良いんだろうかという不安がありますが、文章からは知識の豊富さがあふれ出ていてなんとも不思議な感じです。一部断言しているけと本当にそうか?と思う部分もありますが、おおむね理路整然としていてすごい本です。

『自動車への愛―二十世紀の願望の歴史

ヴォルフガング ザックス(著)  人文・思想 ★★★★☆

ドイツにおける自動車文化史です。原著は1984年ですが、2017年の今読んでも古さを感じさせません。日本では「若者のクルマ離れ」なんて言われていますが、そんなものはドイツでは30年以上前に通過してしまっているようです。一部の上流階級が自動車によって地位を誇示し、移動の自由に興奮した時代。モータリゼーションで大衆が自動車を持てるようになり、上昇志向と上位モデルへの移行がリンクして語られた時代。その後70年代以降、自動車を前提した社会が出来たことで、自動車を持つ必要性にかられているに過ぎなくなり、自動車が特別なものでなくなる時代が来ます。そしてメーカーは環境負荷への批判を逆手にとって新しい環境技術を売り文句にし始めます。自動運転やカーシェアリングなどの最新動向を除けば、現在の日本のクルマ事情を見事に予見していると言って良いと思います。

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